奪取―[Berry's版]
 両手を伸ばし、喜多は絹江を抱き寄せる。互いの胸が重なることで、伝わる鼓動が反響しあう。これ以上ないほど、きつく抱きしめられ、どちらの鼓動か分からなくなるほどだ。自然と、絹江の腕が喜多の背中に回る。同時に、喜多の肩へ頭をもたれかけて。

「余裕を見せたいのに。緊張してる。馬鹿だろう」
「ううん。少し安心した。私だけじゃないんだって」

 顔を挙げ、喜多が絹江の額に唇を落とした。互いを見つめ、自然と笑みが零れる。

「ふたりとも、いい年をした大人なのに。おかしいね」
「本当だな。でも……関係ないのかもしれない。恋焦がれた相手と、やっと肌を重ねられることへ対する思いなんて。いくつになっても、変わるもんじゃないだ」
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