せんせい
「坊や……一体、何を、教わって来たの…!?…」
「え?ダメ?百恵ちゃんのアドバイスのお陰で自分史上最高にうまく書けたと思うんだけど。」
「…まず、一貫したテーマがないわ。それから、わたしは疑問文を入れろとは言ったけど質問しろとは言ってないわ。“ちなみに森先生は一人暮らしですか?”って、どさくさに紛れて何聞いてんのよ!?」
「…ダメだった?」
「当たり前でしょ!?あんた、読書感想文ナメてんの!?」
「だって…森先生に届くならこの際なんでも聞いておきたくて…」
「だからって…………っ……え?」
百恵はそのとき、雷に撃たれたような衝撃を受けた。
突然、理解したのだ。いま自分が立ち向かっている大きな問題の、解決すべき道筋を。
そうだ。自分はなにを勘違いしていたんだろう。大切なのは優等生的な感想文を書くことではない。昌子はそんなこと、はなから望んではいないのだ。言っていたではないか、「森先生のハートを撃ち抜くような感想文を」と。目的は、そこなのだ。毒にも薬にもならないような感想文を書いたって、意味がない。
「そうか………!そうなんだわ!!」
「百恵ちゃん?」
「昌子ちゃん! ごめんなさい!私が間違ってた!! 貫くテーマなら、ちゃんとぶっといのがあったんだわ! この感想文のなかで太く縦に一本通っている筋は… 恋! あなたの恋心よ!!女の子の一番大切なもの、あげちゃいましょう…!!」
「……はい?」
突然エンジンが掛かったように、百恵は紙に文字を書き始めた。みるみる原稿用紙が黒く埋められていく。ふたりの討論は深夜に及び、それは百恵の母親が昌子宅に菓子折りを持って迎えに来るまで続いた。
のちに昌子は振り返る。「あの時、百恵ちゃんがいてくれなかったらいまの私はありません。」と。
ひと夏の経験
女の子は誰でも一度だけ、体験するのよ。
恋心、真心
あの人に、届け。