Bloom ─ブルーム─
「ここが好きな理由はね、もうひとつあるんだ」

「もうひとつ?」

「うん。あそこに見える墓地あるでしょ?あそこに、母さんが眠ってるんだ。俺、反抗して全然母さんの話聞かなくてさ、親孝行も何もできないままで。病気だったのも、ずっと知らなくて。

気づいた時にはもう、いなかった」

両親健在の私にはわかり得ないことなんだと思った。

「めちゃくちゃチャリ走らせて、ぶっこわれる勢いで病院行ったのに……実際ギアチェン壊したんだけど。

でも、間に合わなかったんだ」

寂しいとか、悲しいとか、そんな言葉では片付けられない想いが、彼の声から伝わってきた。

「俺に言いたかったことがたくさんあったと思うんだ。話したかったことが、きっと山ほどあったはずなんだ。

聞けなかった気持ちが、ここにいたら聞こえるような気がして。

だから、ここで歌詞書いてるんだ」

長谷川大樹はそう言うと、学祭の日に私に預けたノートを鞄から取り出した。

「全ての人に、明日があるとは限らないっていうのを、今、迷ってる人に伝えられたらいいなと思って」

そして、ボールペンを1本ポケットから取り出すと、真ん中くらいのページを開き、何かを書き込んだ。

「実は今、とても感動しました」

そう言って、書き終えたノートを私に向ける。

そこには

『ここの季節が変わるときを、一緒に見よう』

と結構汚い字で書かれていた。


< 131 / 315 >

この作品をシェア

pagetop