Bloom ─ブルーム─
まだ友達認定を終えたばかりの歳上の男の人を呼び捨てなんて、簡単にできるわけない。

「じゃあ、とりあえずそれでいいか」

とりあえずってことは、その次の段階がもう少ししたら来るんだろうか。

大樹……先輩は、鼻唄を歌いながら背中を手すりに預けて座った。

さっきの歌詞にもうメロディーがついたのかな?

聴いたことあるようで、懐かしいようで、でも知らない歌。

それを聴いていたら、なぜだか、急に寂しさを覚えた。

私の知らないこのメロディーが、いつか、誰もが知る歌になるんだろうか。

今、ここで生まれた音が、いつかカラオケに配信されて、ずっと遠くにいる見知らぬ誰かが歌ったりするんだろうか。

それで、私がこの先働くどこかで、有線として流れたり、するんだろうか。

そのとき、彼の隣には誰がいるんだろう。

そう考えると、今、この瞬間、一番近くにいるのは私なのに、彼がすごく遠くにいるように感じた。

「東京、行くんですよね」

「うん。行くよ」

「じゃあ、今のうちにサインもらっておこうかな」

「あ、じゃあサイン考えなきゃって、売れるかわかんないのに。くく。もしかしたら売れないミュージシャンとしてフリーターでその日暮らしをしてるかも」

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