Bloom ─ブルーム─
「売れますよ」

「何を根拠に?」

だって。




お腹の底に響く太い声。

強くて勇ましくて、でもちょっとだけ頼りなさげで儚そうで、優しくて。

喉だけじゃなくて、全身で歌う、彼。



その姿に、心が揺れない人はいないと思うもの。

響かないはずはないと思う。

私だって、一瞬で心奪われたのだから。

学祭のあの日。

たくさんの歓声に包まれて、脚光を浴びながら歌う彼に。

鼓膜を突き破り、突如私の体の芯に入り込んできた音。

獲物を狙うような野生の瞳で観客を見渡したかと思えば、悲しげに顔を歪めるその表情。

挑発的に顎を上げて見下ろしたかと思えば、照れ臭そうにニヤッとこぼす笑み。

全力で歌う彼の姿は汗は、体は声は、誰よりも輝いていて。

私は震える胸を抑えるのに必死だった。

あの歌声を聴かなかったら、きっとこんな風に揺さぶられる息苦しさを知らなかった。

息苦しくて、痛いけど、それでもなせだか心地いい、こんな気持ち。

私はきっと、学祭のあの瞬間、もうすでに恋に落ちていたんだ。

全身で魅了する、長谷川大樹に。

「なんとなく」

「勘かよ!」

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