Bloom ─ブルーム─
「ゆっくりでいいから、食べ終えたら里花ちゃんも上おいで」

大樹先輩はポンと、ミサンガの揺れる左手で私の頭を撫でると、健さんと一緒に2階へ繋がる階段を上がって行った。

今度は頭が熱い。

私、自分が思ってる以上に重症なのかも。

この気持ちは恋なんだって気づいたらもう加速する一方だ。

その先に、ハッピーなゴールは待ってないと知りながら。

「もうすぐね。大ちゃんがお兄ちゃんになるの


汁の底に残った麺を見つめていた時、不意に由紀ちゃんの声が降ってきた。

「あんなおチビちゃんが」

いや、チビでもお兄ちゃんになれるだろう。

「聞いたことある?大ちゃんの弱音」

由紀ちゃんは厨房から身を乗り出して、私にコッソリ小声で話しかけてきた。

「いいえ。笑ってる大樹先輩しか知らないかも」

「ふふ。あの子ね、昔から意地っ張りだから。健と幼稚園が一緒でね、もう我が子のように見てきたんだけど。

本当泣かない子でね。転んではベソベソしてる健と大違い」

幼稚園児の健さんと大樹先輩を想像すると、不思議な気分になった。

あの2人が園児服を着て……。

「お母さんが亡くなった時も、涙ひとつこぼさなかったわ」

「え……」

「こぼさなかった……じゃないわね。誰にも涙を見せなかったのよ」

それは、どういう意味?

首をかしげて由紀ちゃんを見つめ、次の言葉を待つ私は、ふと、あることを思い出した。
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