Bloom ─ブルーム─
「あの日ね、その曲が流れ出した途端にピタッと大ちゃんの箸が止まって、突然トイレに駆け込んで。

そこの個室トイレから1時間くらい、大ちゃんの嗚咽が……ずっと聞こえてた。

それまで溜めてた涙を全部吐き出したんじゃないかってぐらいね。

でも、1時間後出てきた大ちゃんは、真っ赤な目をしたまま、『腹の調子悪いみたい』って、笑うのよ」

息が詰まるかと思った。

あの人はあの笑顔の裏に、どれだけの悲しみを隠してるんだろうって。

「いいお母さんだったんだけど、夫婦の仲はほとんど冷めててね。お父さんも今のお母さんと付き合ってたらしいし、お母さんにも大事な人ができてたのよ。

そんなんで大ちゃんも余計に大人にならざるを得なかったのね。

ご両親は大ちゃんの気持ちを考えて高校受験が終わるまではそっとしておこうって話してたみたいだけど、大ちゃんにとってはいい迷惑だったのかもね。

でも、高校受験を待たずにお母さんの病気が見つかって。

強がって笑ってるけど、本当は誰よりも寂しがり屋なのよ、あの子。私もできる限りお母さんとしてあの子に振る舞ってるつもりだけど、でも私じゃ足りないのよね。

赤ちゃんが産まれることも、本当は不安なくせに。

自分が邪魔ものになるってきっと思ってる。

だから、卒業したらこの町を出てくなんてバカな事言って」
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