Bloom ─ブルーム─
上からは、ギターの伴奏に合わせて大樹先輩の歌声が聴こえていた。

最近よくテレビで聴くバンドの、カバー曲。

その力強い歌声の裏側の儚さ。その意味を、私は今やっと理解したのかもしれない。

わかっていたようで、わかっていなかった。

楽しそうに笑うその顔で隠してる内側も。



零れる笑みは、もしかしたら彼の涙なのかもしれない。

流れるメロディーに耳を傾けながら、無性に泣きたくなってしまった。

でも、私が涙を流すわけにはいかない。

彼が笑うなら、私も笑ってあげよう。

「いい声よね」

「はい」

「こんな古びたラーメン屋の2階で歌わすにはもったいないわ」

確かに、大きなステージで脚光を浴びながら歌えば、その辺の歌手に負けないくらい観客を魅了する力があると思う。

でも、この木造のラーメン屋の2階で歌うことに意味があるんじゃないかとも思う。

ここが、きっと彼の一番安らぐ場所なのだから。

そして、ここが大切な出発点となるように。

いつか、広い世界へ飛び出してつまづいたときに、この温かな場所を思い出して歩いていけるように。

いつか、この日の歌声が思い出になってしまった時、何度でも瞼の下で蘇るように、私は目を閉じて彼の声を聴いた。

この瞬間を、一緒に過ごしたこの時間を、忘れないように。



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