Bloom ─ブルーム─
しばらくすると、急に静かになった2階からドラムが1人降りて来た。
そして
「あいつら、待ってるよ」
なんて言う。
練習中に邪魔しちゃいけないと思って、お箸を持ったままカウンターから動けずにいたんだけど。
いいのかな?
ドラムは携帯を耳に当てながら外へ出て行く。
喧嘩でもしてるのだろうか。「だから別にいいって言ってんだろ!」なんて、苛立った声を出していた。
まぁ、いつも怒ってるみたいな人だから、そう驚かないけど。
彼女かな。
私は立ち上がると「お邪魔します」と、由紀ちゃんに断って奥の上がり台へと進んだ。
健さんの部屋に入った事は数回あるけど、こうして後から1人で上がるのは初めてだから、なんだか緊張する。
上はなぜだか物音ひとつしないし。
さっきまで聞こえていた大樹先輩の歌声が嘘のよう。
ゆっくり階段を上り、上がりきって左側にある健さんの部屋の襖を開ける。
「大樹先輩?」
でも、周りを見渡しても、2人の姿はどこにも見当たらなかった。
ここじゃないのかな?
でも、他の部屋を勝手に開けるわけにいかないし……。
ただ不自然なのは、昼間なのに閉められているカーテン。
ブルーのカーテン越しに射し込む光が青白い。
なぜだか寒々しい雰囲気。
真夏なのに、変なの。