Bloom ─ブルーム─
「あ、これはうちで飼ってる柴犬だから気にしないで」

そんな紹介をされたら

「ど、どーも。花子です」

と言うしかないじゃない。

ギロッと健さんを睨むと、ブハッと吹き出す彼。

「柴犬?」

キョトンとするナナさんの声が、ひどく透き通って聞こえた。

ライブハウスでは気づかなかったけど、近くで聞くとなんて清楚な声なんだろう。

声まで透明感があるなんて、これはもう神様を恨むしかない。

「ま、気にするなってことで。で、」

健さんは、2つめの「で」の後突然真顔になると、ナナさんのまだ濡れてる瞳を見つめた。

「どーゆーこと?」

ナナさんは瞳を左右に揺らすと「だって……」って、狭い肩をさらに縮める。

私が男だったら思わず抱き締めてしまうだろう。

実際健さんの手もピクンと揺れていた。

「またはっきり答えも聞かないで逃げてきたとか言わないよな?」

「……」

ナナさんは俯き、友達はその質問にフーッと大きなため息を返す。

「マジか?お前、何回同じ事繰り返せば気が済むんだよ?アイツもずっと引きずってたんだよ?今朝の電話でちゃんと教えたじゃん。

まぁ、もっと早く伝えてやらなかった俺にも責任あるんだけどさ」

そして「あわよくば……って、弱みにつけこんでこっち振り向くように仕かけたりしちゃったけどさ。結局全然引っ掛かんなくて空回りだったけどさ」ブツブツ濁す健さん。
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