Bloom ─ブルーム─

「あれは、たまたまです。たまたま誕生日と重なったから歌ってみてくれただけで。それにあれは、きっとお母さんの為に歌っていたんだと思う。お母さんの好きな歌だもん」

実際、私だって勘違いしてしまったけど。

あんな風に歌われたら、好きじゃなくても好きになってる。

そして。

『──……花っ!』

“里花”と聞こえたあの声。

ナナさんの友達の話を聞いて、あの空耳がもしかしたら現実だったのかもって思ったけど。

でもやっぱり、ただの空耳だった気がする。

時間が経てば経つほど、夢の中で聞いた声のように感じられてくるんだ。

それに、万が一そうだとしてもそれに深い意味はない。

きっと、本当はナナさんを抱き締めたいのに、私が悲しい顔して走って行くのを見つけて良心が痛んだだけなんだ。

ナナさんを追いかけなかったのも、きっと健さんを傷つけるのを恐れたから。

だって人一倍誰かを傷つけることに敏感な人だもん。

優しいその気持ちが、本当は余計に周りを傷つけるって知らずに。

「名前を呼んだのが、万が一『里花』だったとしても、それもたまたまです。

でも、あの2人はたまたまなんかで終わっちゃうような関係じゃないはずだから」

だって、大樹先輩のナナさんを見つめる瞳の優しさ、健さんも見たでしょ?

「健さん、辛いけどもうひと踏ん張り頑張って下さいね。あ、そうだ、大樹先輩に、ナナさんの番号教えてあげて下さい。

忘れる為に消しちゃったはずだから。追いかけても間に合わなかった時の連絡手段として」
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