Bloom ─ブルーム─
「俺はやだよ。教えたくない。どうしても教えたいなら里花が伝えれば?」

この期に及んでまだダダこねるか?

「──じゃあ教えて下さい」

鞄からペンを取り出そうとすると、イジワルな健さんは私の準備も待たずに小声の早口で11桁の番号を言う。

私は慌ててマックのチラシを裏返すとそこに書き留めた。

「てか、番号暗記してるんですか?」

確認もせずに健さんの口から出てきた番号。

「チャンスとか思わないの?」

健さんは私の質問に答えることなく、新たな質問を投げ掛けてきた。

「え?」

「2人がまたちょっとすれ違ってる今なら、もしかしたら入り込む隙があるかもとかって、考えないの?

俺は今、もう少し頑張ればイケるんじゃね?って考えちゃってるんだけど。

番号わかんないなら、なおさらラッキーじゃん。2人を会わせなければ俺らにもチャンスが巡って来るかも知れないじゃん?」

健さんは番号を書き留めたチラシを破ろうとした。

でも私は慌てて奪い返すと、くしゃくしゃっとチラシを握りしめる。

「考えますよ。考えるけど」

私だって、そこまでおひとよしじゃない。

ナナさんに完全に嫉妬していて、多分今の私は誰より醜いんだ。でも。

「でも、私じゃ埋められないもん」

いろんな大樹先輩の悲しみや寂しさ、それを埋められるのはきっとナナさんだけなんだ。

ナナさんを見つけて動揺した先輩。

『ナナ』と呼ぶ優しい声。

ナナさんを見つめる温かい眼差し。

それを痛いほどに見せつけられた今、何をチャンスと思えっていうの?

私は結んでいたミサンガをほどこうとした。

可愛くなる必要はもうないんだ。
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