Bloom ─ブルーム─
それからどれくらい時間が経っただろう。

目の前に新しいLサイズのコーラが置かれた時、私はやっと上着から顔だけ出して健さんを見上げた。

「うわっ。ひどいな。それないわ。それは大樹に見せられねぇ」

「えっ?」

フツーここは、「大丈夫?」とか「泣き止んだ?」とか優しい言葉をかけてくれるとこじゃない?

なのに、泣きはらした私の顔を指差して大笑いしてる目の前の彼。

「ま、大泣きっていうのは、そういうもんだけどな。キレイに泣けるのは女優かナナくらいだろ。まず鼻かめ鼻」

泣き方さえもナナさんには敵わないんだ。

健さんが差し出してくれるのは、地下の携帯SHOP前で配られてたポケットティッシュ。

受け取ると、鼻水だか涙だかもうわからなくなった自分の顔を拭き、思いきり鼻をかんだ。

そして、新しいコーラをゴクンと飲む。

わざわざ買ってきてくれたんだ。

硬い炭酸の刺激が心地いい。

ほどけかけたミサンガが、視界に入った。

それを健さんはゆっくり結び直してくれる。

「願うのは勝手じゃね?それくらい許してもらわないとやってらんねぇよ」

健さんによって許されたミサンガは、今までよりも少しきつく結ばれた。

健さんの前では、コーヒーが湯気を立てている。

クーラーのききすぎた店内で、冷えきった心を温めるみたいに。

「あ」

湯気が上り消えてく姿をじーっと眺めている私に、健さんは何かを思い付いたように声をあげた。
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