Bloom ─ブルーム─
上着の中から覗き見ると、いつもとは全然違う、ピリピリした雰囲気の大樹先輩が、私の腕を掴んで立っている。

切れた唇と腫れた頬が痛々しかった。

「誰かわかっててその腕つかんでんの?ナナじゃないよ?」

健さんが聞く。

「里花だろ」

「へー。わかってたんだ?窓の向こうから見えた上着を被った女が誰かわかってて、そんで慌てて飛んできたんだ?」

「……何が言いたいんだよ?」

「ん?べつに。ただ」

未だに喧嘩中の2人を、本当なら私が止めなきゃならないのに。

キスされそうだったことも、それを遮ったのが大樹先輩だってことも、ここに大樹先輩がいるってことも、全部が私を動揺させて、何も話せない。

「中途半端な優しさを欲しがってるわけじゃないってわかってて、その腕を掴んでるのかなと思ってさ」

健さんの言葉に、私の腕は簡単に解放された。

腕に残った痛みは、“中途半端な優しさ”の仕業だと嫌でも思い知らされる。

私はテーブルに置いてあったチラシを無理矢理引き伸ばしてシワを取ると

「これ、ナナさんの電話番号です。ここ、ちょっと滲んじゃってるけど、8ですよ?間違えないで下さいね?」

説明して、それを大樹先輩に手渡した。

「ちゃんと電話してください。ナナさん、待ってるんだから。それで、健さん、ごちそうさまでした」
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