Bloom ─ブルーム─
「入籍してないんですか?」

「うん。大樹が認めるまでそのつもりはないってオバサンが言ってるらしい。って、大樹の親父さんがウチ来て飲みながら話してるのをこの間盗み聞きしたんだけど」

盗み聞き?ですか?

「ちゃんと話し合えば丸くおさまりそうな気もするんだけどさ、そこだけはアイツ頑なに拒否するんだよね。

本当の母ちゃんにも恋人いたんだからいーじゃんとか思うんだけど。

でもそれは未だに認めたくないみたい。美化したいんじゃね?母ちゃんだけは親父をちゃんと見てたんだってさ。

俺からしたら意地張ってバッカじゃねーの?って感じなんだけど」

大樹先輩の意地が、私にはわからないでもなかった。

大切なお母さんだもん。

信じたいんだ。

でも、だからって新しいお母さんを追い出すのも違うし、大樹先輩が出ていくのも絶対違う。

どっちにしても、いいわけないんだ。

追い出す罪悪感。

逃げる孤独感。

「これ、やるよ。里花の好きにしていいよ。せいぜい悔いの残らないようにさ。はい、俺の急用終了」

そう言うと、健さんは私の手に大樹先輩の退学届を持たせ、じゃ、と片手を上げて去ろうとした。

「ちょ、ちょ、ちょっと待って!健さん、待って 」

私は慌てて健さんの制服の裾をつかんで引き止めた。

健さんは、私の行動を予想してたかのように、振り向いてニヤッとする。

ちょっとだけ負けた気分。
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