Bloom ─ブルーム─
でも。

このままでいいわけなんかないんだけど。

「これは、受け取れないです。ナナさんを差し置いて、私は動けない」

そうだ。大樹先輩にはナナさんがいる。

私なんかがでしゃばるわけにいかないんだ。

健さんにとって、私の言葉は期待に反してたらしい。

彼は大袈裟にズルッとずっこける真似をしてた。

「あーもー、そんなウジ虫だったっけ?今までのお前ならどうしてた?」

ウジ虫って……。

「俺はこれをお前以外に渡すつもりないよ。もしお前が動き出さないなら、このままアイツの机の中に戻しとくだけだけど?」

それは、困る。

でも、今さら踏み込むのはお節介の何物でもないし。

私なんかが余計なことしていいはずもない。

もう決まってる大樹先輩の気持ちを動かすのもきっと不可能だろうし。

私のわかままだけでひき止めるのはもっと無理。

ここから先は、ナナさんに任せるべきことなんじゃない?

でも、もしかしたらナナさんにも内緒の計画なのかも。

だとしたら……。

大樹先輩が居場所を見つけられないまま逃げて行くのは絶対にやだ。

「大樹先輩……赤ちゃんを見に行ってないんですか?」

「行くわけねーじゃん。行けるわけねーよ」

「産婦人科……どこ?」

東京でも何でも、行きたいのなら行けばいい。

でも、それは、全てに蹴りをつけてから。

じゃないと、後悔するのは、大樹先輩自身なんだ。

私は健さんから産婦人科の名前と場所を聞くと、退学届をカバンに入れて走り出した。
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