Bloom ─ブルーム─
「頑張れよ」

躊躇いの残ってる足は、健さんの応援が後押ししてくれる。

今までの私なら、きっと黙って見てるわけないんだ。

好きとか嫌いとか別にして、私は大樹先輩に後悔してほしくない。

笑っててほしい。

そして、歌ってほしい。

聞き出した場所は、健さんのラーメン屋の通りを真っ直ぐ下りた先の交差点にあるらしい。

大樹先輩と何度も一緒に通ったあの坂道を、今日は1人で駆け上る。

夏休み明け、満員バスの中から眺めるだけだった坂道。

必死で上るチャリ通達の姿を、あの頃の私達と重ね合わせて見ては、思い出に変えようとしていた坂道。

上りきって苦しくなる息を整えると、その先に視線を向けた。

坂道を下った先の1つ目の信号の辺りにいくつかの人影が見える。

やっぱり簡単に見つけ出してしまう、私の未練がましさ。

赤信号で止まるその背中。

茶色く揺れる髪。

ボロボロの自転車。

──大樹先輩……。

本人を目にすると、気持ちは急激に怯み始める。

どうする、私?

ううん、里花はこんなとこで何もできずに立ち止まってるような女じゃない。

一度見つけた太陽に向かって、一途に突っ走る向日葵!

私は大きく息を吸い込むと、これ以上ないってぐらいに走った。

先輩の背中だけを見つめて。

あと少し。

もう少し。

その時、信号が青に変わった。

待って。

「だ、……大樹先輩!待って!」

私は力の限り叫んだ。

届く?先輩、待って。

ペダルに足をかけて、今まさに走り出そうとしていた先輩は、私の声にゆっくり振り向いた。

そして目を丸くする。

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