Bloom ─ブルーム─
「逃げた先に希望なんてないもん。今ここで居場所見つけられない人が、別の場所で居場所を見つけられるわけない!」

「里花ちゃんには関係ないだろ」

「関係……ないけど。でも、逃げてく先輩を見たくないです」

「だからって、なんでここに来なきゃならないんだよ?」

声を荒げる先輩。

初めて、本気で怒ってる顔を見た。

ニコニコ穏やかな笑顔がトレードマークのような彼を、ここまで怒らせる私はよほどだ。

本気で苛立ってる。

先輩は髪の毛をかきあげて苛立ちを露にした。

「……だって。後悔してほしくないんだもん。周りに遠慮して寂しい顔をしてる大樹先輩をもう見たくないんです」

それでもここで諦めるわけにいかない私は、大樹先輩の腕を掴むと産婦人科へ引っ張った。

「赤ちゃんに会っても何も変わらないかもしれないけど、もしかしたら何か変わるかもしれない。

お母さんだって、話さなきゃわからないことがたくさんあるはずだし、きっと先輩の見えてないことだって、もっとあるはずなんです。

1歩だけでいいから踏み出せば、気づかなかった何かが見えるかもしれない。もし見えなくても変わらなくても、何もしないよりずっといいはずです。だから」

「はぁぁ」

わざとらしく大きなため息つく先輩。

でも、もう一度髪をかきあげた先輩はその足を私の引く側へ踏み出してくれた。

良かった……。

もしかしたら私のすることは、かき乱すだけで何にもならないのかもしれない、と思うと怖いけど。
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