Bloom ─ブルーム─
受付で部屋番号を聞き、2階にあるお母さんの病室に向かう。

遠くの方で、生まれたての泣き声が大合唱しているのが聞こえてた。

ミルクの甘い香りが高ぶっていた気持ちを落ち着かせてくれる。

それは、大樹先輩も同じみたいだった。

表情が少し和らいでる。

お母さんのいる病室の前にたどり着くと、間髪をいれずにノックして病室に入った。

一瞬でも躊躇うと、先に進めないような気がしたんだ。

扉を開くと、お母さんと呼ぶには若すぎる、きれいな女の人がこちらを不思議そうに見つめていた。

あまりの美しさに気を取られていると

「違う、あっち」

大樹先輩は私の頭を後ろから両手で挟むと、隣のベッドに座る、太ったおばさんの方に首を向けさせた。

「あ、こっち?」

2人部屋なんだ?

っていうか、想像と全然違う。

もっと若くてキレイで……だってほら、ネイルアートしてるとか言ってなかったっけ?

おばさんの爪をよく見ると、ネイルアートと呼ぶにはなんともお粗末な花の絵が描かれていた。

もっとすごいやつを想像していた。

なんて、言えないけど。

「高齢出産、大丈夫?」

大樹先輩は意外にも普通にお母さんに話しかける。

なんだ、話せるんじゃん。

私はお母さんの隣のかごに眠る赤ちゃんに目を向けた。
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