Bloom ─ブルーム─
「勇君を見なきゃって思っても、気づくと違う方向に目がいってて……」

私はそんな友里亜の背中を撫でてあげることしかできなかった。

「夢の中の背中はさ、」

友里亜の顔を覗き込んで聞く。

「直人なんでしょ?」

そしたら、友里亜は顔を覆ってわっと泣き出してしまった。

「人の気持ちって、こうしようと決めて動かせるものじゃないんだよね。好きになる気持ちって、頭で考えるものじゃないもん。

気づいたらそこにあるものだもん。だから、今は誰を傷つけるとか気にしないで、素直になるしかしょうがないんじゃないかな」

でも。

そんな事を上から言える立場じゃないんだ、私。

自分の失恋もまともに処理できないっていうのに。

それに、こうして友里亜を悩ませたのは、私自身なんだ。

あのとき、勢いに任せて友里亜を揺さぶって、答えを急かしたから。

だから友里亜はまだハッキリしない気持ちを正解だと勘違いして走り出してしまった。

「ごめんね。私が友里亜を焦らせたから……」

そして。

大樹先輩からのアドバイスを胸に、友里亜が自分自身で気づいて動き出すのを待つのがいいんだと思ってたけど。

実際、手を差し伸べる余裕が私にはなかった。

「私、自分のことばかりだったんだ。大樹先輩に振られて1人で落ち込んで、会いに来てくれる友里亜に甘えっぱなしだった。

友里亜の気持ちにもなんとなく気づきながら何もしてあげられなくて、ごめんね」

「ううん。里花のせいじゃないよ?里花のせいなんかじゃないの。私が……ハッキリしないから」
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