Bloom ─ブルーム─
「じゃーね、直子!」

私は2人に手を振って歩き出した。

「直子って!」

今、女になるって宣言したばかりなのに。

やっぱり全然自覚なんてない直人。

女になる必要なんて、きっとそのうちなくなると思うけどね?

「あ、そう言えば、あいつにお前の番号聞かれて教えちゃった。後……頼むよ」

直人の声に振り返ると、やっと涙を捨てて、安心したように微笑む友里亜がいた。

私は直人だけにわかるように親指立てる。

仕方ない。

明日辺り、杏奈に何か奢ってやろうかな。

「夕飯食べてく?」

「マジで?あ、俺……アタシ作る?」

「ばか」

2人の話し声がだんだん小さくなってく。

きっと開けた窓からは新鮮な風が入り込んでいて、さっきまでの涙で湿気った空気は一掃されてるんだ。

今夜は悲しい夢を見ずに済むかな。

見上げれば、傾きかけてる夕陽が空をオレンジ色に染めていた。

いつか、こんなオレンジに照らされてる大樹先輩を見たっけ。

確か、ナナさんとの恋バナを聞いた日だ。

大樹先輩……。

失恋は辛すぎて、目をそらして逃げ続けたけど。

でも今日久々に話せたことが、私の心を軽くしてる。

嫌われたかもしれないけど、ウジウジ悩んで何もできずにいるよりずっといい。

健さんに感謝しなきゃ。

簡単に友達に戻るのは無理だし、前みたいに何もなかったように話すのも無理だけど。

でも、明日もし学校でバッタリ出会ってしまったとしたら、逃げずに「昨日は勝手なことしてごめんなさい」って謝るくらいなら出来そう。



指先には、まだ赤ちゃんに握られた感触が残っていた。

微かに笑った大樹先輩の顔も、私の胸に残ってる。
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