Bloom ─ブルーム─
自宅近くのバス停でバスを降りると、辺りは薄暗くなり始めていた。

あちこち突っ走って、やっと長い放課後を終えた感じ。

角を曲がり、もうすぐ家に着くと思った時。

自宅を目の前にして

「……うそ」

疲れ過ぎたのか、幻覚が見えた。

ん?

目をゴシゴシこすって、再度見つめる。

やっぱり消えない幻。

私の家の前では、止めた自転車に寄りかかって立っている大樹先輩がいたんだ。

「本物……?」

「偽者に見える?」

なんて、ふっと笑う先輩。

これは、いじめすぎた神様からのご褒美だろうか。

だって。

怒らせるようなことをしたのは私の方なのに。

嫌われたかと思ったのに。

「さっき、ごめん。なんか苛立って怒っちゃったから」

なんて、先輩が謝るんだもん。

そんなことを言いにわざわざ来てくれたの?

「い、いえ。私の方が、勝手なことして……すみませんでした」

いつから待っててくれたんだろう?

自転車から離れて立つと、「痺れちゃった」って笑いながら右手を振ってる先輩。

そして、うちの庭に目を向けると

「向日葵、キレイだね」

なんて世間話を始める。

なぜ?

動揺で頭が追い付かない。

「お母さんが、好きな花だから。里花の名前の由来らしいです」

「そうなんだ?」

さっきは勢いと、赤ちゃんとお母さんの涙で、この微妙な距離感を乗り越えられたけど。

こんな薄暗い道端で2人きりだと、どうしていいかわからなくなる。

健さんに助けを求めても、もう登場しないって言われたばかりだし。

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