Bloom ─ブルーム─




「──元気?」




長い沈黙の後、言葉を探すように先輩が聞いた。

「はい」

としか言えない私。

気のきいた返事の仕方も、そこから話を広げる術も知らない。

隠してるのか、揉み上げをスリスリ撫でてる先輩。

よく見ると、やっぱり片方だけ剃られた揉み上げは微妙かもしれない。

パッと見、オシャレっぽいかなと思ったけど。

私の視線に気づいた先輩が「見るなよ」って恥ずかしそうに笑った。

「さっき、病院行けて良かったよ」

そして、その手でそのまま髪をかきあげる。

「本当は行くつもりなんか全然なかったんだけど。

けど、あの人と……母さんと、ちゃんと話せて良かった。俺、結構誤解してたし、偏見持ってたみたいだから」

あの人のことを“母さん”と呼ぶ先輩は、少し照れくさそうだった。

「ネイルアートも、自分がブスだから少しでも本物のお母さんみたいにキレイになりたくてとか言ってて。案外、フツーの女子だったよ」

本当のお母さん、キレイな人だったんだ。

先輩はお母さん似なのかな。

「ふふ。あの花、微妙だったけど」

「そう。下手くそなんだよ。元々爪ちっちゃいし。

洗濯もさ、今流行りなのはダウニーなんだとか言って、俺を最先端男子に仕上げる為に使ってたみたいで。秘かに頑張ってたらしいんだ。

けどダウニーって、流行ったの結構前じゃん?全部微妙にズレてんだよ」

あ……やっぱりダウニーだったんだ?先輩から香る甘い匂い。

私の好きな匂い。
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