Bloom ─ブルーム─
「お母さん、可愛い人ですね」

「う~ん。……かな?」

まだ素直に認められない彼は、言葉を濁す。

「あ、そうだ」

そして、急に何かを思い出したようにポケットに手を突っ込んだ。

ポケットから出てきたのは、小さなスプレー式のボトル。

「これ、手作りの化粧水らしいんだけど、あげるよ。

あの人がさ、……母さんの手がキレイなのは、この水のおかげなんだって。

俺、家事しないからなんだと勘違いしてたんだけど」

手渡された化粧水はただの水のように透き通ってるけど、振ると水よりトロミがあった。

お母さんの手作り?

「もらっても、いいんですか?」

「うん。たくさん作り置きしてるみたいだから」

私の荒れた手を覚えてたんだ。

嬉しいような、忘れて欲しかったような……複雑な気分。

でも、これですべすべになれるのかな。

ボトルの底を見ると、マジックで“ヒロコ”と書いてあった。

お母さんの名前?

「俺が持ち物全部に名前つけてるの見て、真似したんだって。近づこうと必死だったみたい」

先輩の知らないところで、先輩はこんなにも愛されてたんだ。

お母さんがいい人で良かった。

話を聞いただけだと、若くて美人で冷たいイメージだったけど、全然違う。

あ。“美人”っていう言葉に対して全然違うというのは失礼かな。

でも、温かそうな人。

これからゆっくり家族になっていけるのかな。

「ありがとう……」

化粧水を手につけると、スーっと冷たい感覚が指先まで走る。

ジワジワとしみて、それから温かくなった。

「効きそう」

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