Bloom ─ブルーム─
あ、でも痛いかも。

だんだんジンジンしてくる。

ヒリヒリする手を擦りあわせていると、先輩がそこに手を伸ばしてきた。

そして赤くなった私の指先に触れる。

「痛そう」

「え?あ、あ、えっと、日頃の手入れ不足です、ので大丈夫」

私は慌てて手を引っ込めて、後ろに隠した。

ドキドキがまた止まらない。

痛みなんてぶっ飛んでしまった。

なんで先輩はこんな簡単に優しく出来ちゃうんだろう?

そういうとこは、ずるいと思う。

「今日も、ご飯仕度?」

「あ、は、はい」

「まだ誰も帰ってないの?」

暗くなっても明かりのつかない部屋の窓を見上げて先輩が言った。

「はい。2人ともまだ仕事終わらないし、お兄ちゃんはきっと彼女のとこだから」

「そっか」

「でも、昨日のカレーが余ってるから、作るのはサラダくらいです。手抜きです」

そう言うと、先輩はまた、ふっと笑った。

触れられた指先に未だにドキドキしてる私の気持ちなんて知らずに。

それが先輩の素なんだから、それを咎めたって仕方ないんだよね、きっと。

誰にでも優しい、笑顔がトレードマークの大樹先輩で。

そんな先輩だから、私は好きになったんだもん。

「俺は何を甘えてたんだろうね。里花ちゃんはいつもこうやって頑張ってるのに」

そう言う先輩があんまり真っ直ぐこっちを見るから、私は目をそらして鞄に視線を落とした。
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