Bloom ─ブルーム─
「東京は行ってたんだけどね、2週間位前にこっち帰ってきたんだよ?どんなけ巧みな嘘ついてんだよ、あいつ」

先輩は退学届に印刷された私達の真夏の1ページを眺めながら笑みをこぼす。

騙されたけど、私も不思議と健さんに怒りは湧かない。

こんな風に笑う先輩がここにいるのも、健さんのおかげだもん。

それから大樹先輩は“先輩の先輩”について話してくれた。

「すげー無謀な人でね。

他のバンドのライブでも突然乱入して後ろで踊ったりするし。バラードとか関係なしに変な合いの手入れるし、本当迷惑なんだ。くくっ。

先輩を初めて知ったのも、歌下手なのに開いたワンマンライブで」

「下手なのに、歌ったんですか?」

「そー。iPodで流した曲に合わせて1人で歌ってたんだけど、ジャイアンかよ?ってブーイングの嵐だったんだよ。

チケットも、突然全部の教室回って『音楽好きか?じゃあ買え!』みたいな感じで無理矢理売りつけて。それで顔も知らなかった俺らもなぜか買わされて行ったんだけどさ。

けど、結局その後、俺らにそのステージを渡してくれたんだよね。

あ、たまたまさ、先輩が好きなバンドのボーカルが着てるTシャツと同じのを健が着てたっていうのがきっかけで。

ステージ前にいた健に『お前も好きなのか?』って。そのバンドのコピーしてるって言ったら『じゃあ歌え!』って。

金がなくてライブなんか出来なかった俺らは、初めてそこでステージに立てたんだ。

先輩がくれたあのチャンスは、全然自信なんかなくてまだ固まってなかった俺らの気持ちに確実に火をつけたんだよね」
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