Bloom ─ブルーム─
目をキラキラさせて話す先輩。

夢への第1歩を踏み出した瞬間をなんて嬉しそうに話すんだろう。

私の知らない1年前の先輩が、目を閉じると瞼の裏に浮き上がるような気がした。

多分、今と同じように瞳をキラキラさせて、走り回ってるんだ。

少し短い髪の毛を揺らして、慣れない手つきでマイクを握る──……。

「その後俺ら以外の、まだ始めたばかりのバンドにも歌わせたりしてて。

後から聞いた話なんだけど、最初から、そうやってまだ踏み出せてない後輩にライブやらせるつもりでわざわざライブハウス借りてたらしいんだ。

チケットに“楽器持参のこと”って注意書きがあって、なんで?と思ったけど、それでだったんだよね。

じゃあ歌うなよって感じなんだけど。くくっ。

でも、多分誰より音楽が好きなんだ、安田先輩は。

それからなんとか開いた俺らの初ライブも、先輩が簡単にチケット売りさばいてくれて、ノルマも軽くこなせたし」

「ノルマ?」

ノルマなんてあったの?

私、何も知らずタダでもらっちゃってた。

「ん?あー……もう俺らは売れっ子だから今は必死で売りつける必要ないんだ……って言い方も、あれか?」

もしかして、またタダでもらった私が気にしないように理由を探してる?

初めてラーメン屋に行った時、私が断れないような理由を探して、送ってくれたように。
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