Bloom ─ブルーム─
「とにかく、ノルマのことはいいんだけど」

それは置いといて、って、ない箱を移動させる先輩に思わず吹き出してしまった。

むやみに優しいんだから。

ノルマなんてあるなら、いくらでも払ったのに。

払っても足りないくらい、先輩の歌声は私にたくさんの感動をくれたんだから。

笑った私の鼻に、先輩が指を伸ばした。

つままれるのかと思った。

前みたいに「笑うなよ」なんて。

けど、触れられる前に、伸びた指は元の位置に戻っていってしまった。

そして、「えっと、安田先輩の話だった」って話を戻す。

「あ、練習もさ、安田先輩の姉ちゃんのコネで安くスタジオ貸してもらえたんだよね。

そのうち明宏の彼女になったから、先輩に頼まなくても安く借りれるようにはなったんだけど。

明宏と付き合うことになった時は、なんか知らないけど明宏にライバル心剥き出しな感じだったんだよ?くくっ」

「姉弟なのに?」

「そー。シスコンかよ?って俺らはちょっとバカにして笑っちゃったんだけど、そしたら朝美の……同じクラスの女子でバリカン持ち歩いてるやつがいるんだけど、そのバリカン奪って追いかけてくるから、あれは焦ったー」

朝美さんって、あの人かな。

先輩の揉み上げ剃っちゃった人。

「ぷぷッ」
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