たなごころ―[Berry's版(改)]
 笑実の震えた声が、大きく観覧車内に響いた。と同時に、ふたりを乗せた観覧車が地上へ着く。係員によって、一度ドアが開けられたものの。箕浪との短いやり取りの後、そこは再び閉められた。地上が、再び遠くなってゆく。
 再び静寂の訪れた観覧車内で、箕浪のため息が響く。

「わかった。わかったから、泣くな。多少はマシだった顔が、泣けば取り返しのつかないブスになるぞ」
「泣いてませんよ!多少はマシってなんですか!仮にも、今さっき告白した相手に言う台詞ですか?」

 笑実の台詞に、箕浪は口元を綻ばせる。ねめつけている笑実の視線さえも、愛おしいと言いかねない極上の笑みで。

「うん、笑実はその勢いがいい」
「茶化さないでください」
「茶化してなんかないさ。本当のことだ」

 笑みを浮かべたまま、箕浪は笑実の手を取る。親指で、手の甲をひと撫でしてから。小さなリップ音と共に。そこに箕浪は唇を寄せた。
 慌てて、笑実は箕浪から手を引き抜く。上目遣いに、笑実へ視線を送りながら。箕浪は口を開いた。

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