たなごころ―[Berry's版(改)]
 図書館という場所には不釣合いなほど、着飾り、甘い香りを漂わせた。鈴音の姿が、そこにあったからだ。

「少し、お時間いただけるかしら?」

 首を傾げて、鈴音が問いかける。例え、ここで笑実が首を横に振り、否と答えたとしても。鈴音が黙って引き下がるわけはないだろうことは明白だった。全てを諦めて、笑実はゆっくりと腰を上げた。

「端的に言うわ。箕浪さんの傍から消えて頂戴。お金なら、貴方の満足する分だけ払うわ」

 図書館のある建物を抜け、木の生い茂る広場へふたりは来ていた。近場にあるカフェテリアへ行くことも、笑実は考えたのだが。明らかに部外者であり、周囲の視線を集めそうな容姿の鈴音とふたり。後々噂になるだろうことは、想像に難しくない。故に、笑実は人目につきにくそうな、この場所へ。鈴音を誘導したのだ。
 一角にあるベンチへ座ろうと、笑実は鈴音に促す。しかし、彼女はそれを嫌がった。服が汚れてしまうからと。強要する気もなく、結果的には笑実だけがベンチへ腰を下ろしている状況であった。
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