狂奏曲~コンチェルト~
「まさか……」
強姦に襲われたことがきっかけで失われたその頃の記憶。
その中に、翼がいるの……?
『初めて会ったときから、ずっと好きだった』
翼の言葉が脳裏をよぎった。
私が忘れているだけで、私は翼に会っていた……?
翼は、昔から私のことを知っていた?
翼と初めて会ったときの事を思い返してみる。
驚いた顔で、あの綺麗な青い瞳を見開いて私の名前を呼んだ翼。
あんなに驚いたのは、私のことを知っていたから……?
言いようのない不安が襲い、動悸が激しくなる。
私が、翼を傷つけた……?
もしも、翼がずっと昔から私のことを好きだったとして、それで私が彼のことを忘れてしまったとしたら……?
「そんな……」
お兄ちゃんと親友だと言っていた翼。
時々悲しそうな顔をしていた翼。
もしかして、翼をあんな顔にしていたのは、私なの……?
鉛を飲み込んだような衝撃が私を襲い、心が暗闇に支配される。
言いようのない不安が私を蝕んで、頭が痛くなる。
「っ……」
でも、そんなわけない。
「そんな、わけない」
私は首を横に振った。
自分に言い聞かせるように、そんなわけないと繰り返す。
今が、幸せなんだ。
翼と一緒にいられて幸せなんだから。
不安になんかならなくていい。
そう、信じたかった。