狂奏曲~コンチェルト~
「かなは、自分があんな目にあったってことを忘れてるって自覚してるけど?」
「そうじゃない」
あんな目、その有紀の言葉がざくりと鋭いナイフで突き刺すように、俺の心臓を脅す。
「かなめ、この前訊いてきた。俺と、引っ越す前に会ってるかって」
「…………」
有紀が、軽く目を見張った。
「何か、思い出したのかもしれない。俺との記憶」
「……それで、お前はなんて答えた?」
俺の返答を知れば、有紀は俺を責めるかもしれない。
有紀は、かなめに全てを思い出して欲しいんだから。
「大学で初めて会ったって答えた」
有紀はじっと俺の目を見る。
俺の色を写さない瞳は、真っ黒な瞳に吸い込まれるような、何もかもを見通されるような気味の悪さを覚えた。
有紀はふと笑って、
「ま、お前はそう言うだろうな」
まただ。
「……お前は、いつも俺を責めないんだな」
有紀は面白そうに俺を見て、
「お前はかなに何も思い出してもらいたくはないんだろ? なら、そう言うのが普通じゃないか」
「俺は、お前が何を考えてるのかわからない」
「そうか? 案外何も考えてないかもな」
誰も、俺を責めない。