狂奏曲~コンチェルト~
「あの……貴方誰ですか?」
「!」
困ったように首をかしげるかなめ。
無理もない。
かなめにとって俺は見ず知らずの他人なのだ。
その他人にいきなり名前を呼ばれれば、誰だって驚くだろう。
俺のことを忘れていると話には聞いていたが、こうやって他人を見る目で見られてまざまざとそのことを認識した。
そして、俺はいまだに衝撃から立ち直れていなかった。
前より、髪がずいぶん伸びた。
幼さが抜けていなかったあの頃に比べ、ずいぶん大人びた雰囲気になった。
それでも、かなめはかなめだった。
「あの……?」
無意識に、手が伸びそうになった。
時間があの頃に戻って、かなめを求める。
頭で駄目だといくらいっても、体が勝手にかなめを求める。
心が、かなめを欲してやまないから。
「翼、行くよ」
「かなめ」
どこか焦ったようなほのかの声の後、見知らぬ男の声がかなめを呼んだ。
俺は視線をそちらに向ける。
「あ、それじゃあ」
かなめはそちらを見て、俺に頭を下げてその男の方へと足早に去っていった。
「かなめ……」
かなめは惜しみない笑顔を、その男に向けている。
去っていく二人の後ろ姿を眺めながら、俺は苦しみに似た感情にとらわれる。
「翼ってば」
ほのかが俺の身体を揺さぶり、俺は現実世界へと戻ってきた。
「……悪い。一人にしてくれ」
「ちょっと」
俺はほのかの手を振り払い、その場を後にした。
視界にちらりと、悔しそうなほのかの表情が目に入るが、それでも俺は混乱からすぐにその場所から離れたかった。