狂奏曲~コンチェルト~

 私は、自分の身に起こった出来事を考えていた。
 中学生で、強姦に遭ったという、衝撃的な過去。
 本当は、きっと引きずることなんだと思う。
 ずっと、忘れられないで、心を病むような出来事なんだと思う。
 それなのに、私はそんなことを忘れて、こうやって生きているのに。
 二階堂さんは、何が原因で、何をどうして悩んでいるの?

「なにが原因で……」
「それはさすがに俺の口からは言えない」

 お兄ちゃんが車から降りたので、私もあわてて車から降りた。


 車を降りて目に入ってくる風景は、すっかり見慣れた景色。
 幼い頃を過ごした町並みは、もうおぼろげにしか思い出せない。


「色のない世界って、どんなのかな……」
「ん?」

 玄関の鍵を開けていたお兄ちゃんが、足を止めた私を見たのがわかった。
 でも、私の視線は町並みに向けられている。

「なんだか、寂しい」
「なら、お前が色をつけてやればいい」
「え?」

 お兄ちゃんは、凄く真剣な顔をしていた。

「翼の世界に、お前が色をつけてやればいい」
「でも、どうやって……?」

 お兄ちゃんは何も言わずに、家の中へ入ってしまった。

 私は、お兄ちゃんの真意をつかめなかった。


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