狂奏曲~コンチェルト~

 かなめが過去を、俺のことを思い出すとき、俺は再びかなめを失うことになるだろう。
 俺に犯された過去を思い出したかなめの、反応が怖い。

「……無理だ」

 搾り出すように出した声は、震えていた。

 近づきたいと思う。
 手に入れたいと思う。
 だけど、欲張りは言わないからかなめのことを見ていられるだけでいい。
 もしもかなめが全てを思い出せば、そんな些細な願いも叶わなくなってしまう。

「そうは言っても、お前がかなに近づけば、かなが何かを思い出す確率は上がるんだぞ?」

 有紀の言葉は、もっともだ。
 俺のことを忘れていても、俺と一緒にいればかなめは何かを思い出すかもしれない。

「それでも……かなめには、思い出してもらいたくない」
「お前がそう思うのは自由だが、お前がかなに近づくのなら、覚悟が必要だろ」
「覚悟?」
「受け入れる覚悟を」

 受け入れる覚悟。
 有紀のその言葉は、とても重みがあるように思えた。

「翼、かなはお前を怨んじゃいない。憎んじゃいない。かなはそんなやつじゃない」
「そんなの限度があるだろ。いくらかなめが優しくたって、許せることと許せないことがある……」

 どんな、聖人君子だって……許せないことはあるはずだ。
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