シュガーレスキス
「……」

 聡彦は黙って私を見下ろしている。
 180センチある彼の身長から見れば私なんかつむじまで見えてしまうんじゃないかというほどの差がある。

「関係無いね……」

 そうつぶやいて、聡彦は強引に大きな手で私の後頭部を抱えてキスをしてきた。

「ん!や!」

 何度も背中を叩いてやったのに、彼は全く行動を止める気配がなくて、約束通り多分30回キスしたんだと思う。
 私は泣いていたんだけど、その涙ごと彼は自分の口に入れてかまわずキスを繰り返した。

 キスが全て終わって、涙でボロボロになった私を見て、聡彦はくしゃくしゃになった髪だけ整えてくれた。

「嫌なら応じなきゃいい。ただそれだけだろ……」

 そう言い残して、聡彦は私の前から姿を消した。
 一方通行なのは一緒だった。
 あの雰囲気からいって、彼は私のコスプレ趣味をあざ笑って会社に言いふらしたい訳じゃないのは何となく伝わってきた。
 私が彼の連絡を無視すれば自然消滅するのかもしれない。

 それでいいのかな。
 自分に質問してみる。
 このまま無茶な主従関係を続けるのか、彼を無視して新しい恋を探すのがいいのか。

 それでも、唇に残る情熱的な彼のキスの余韻が私の心をどうしても、ときめかせていた。
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