麗しの彼を押し倒すとき。
一つでも言葉のチョイスを間違えば、何かが崩れてしまいそうな危うさがこの場にはあった。
バクバクと心臓が音を立てる。
そんな固まった空気を溶かしたのは、いつも冷静な椿だった。
「柚季の言うヤンキーっていうのが、正確に何を示してるかは分からない。けれど……少なくとも俺達は、柚季の恐れているような人間ではないと思う」
「……それは、無駄に誰かを傷つけたりとかではないってこと?」
「ああ」
まっすぐ、きっぱりと椿は言い切った。
9年間も彼らとは離れていた。幼少期から思春期を含んだその年月は長く、たとえ私のいない場所で彼らが変わってしまっていても、おかしくはない。
だけどなぜか、椿の目は嘘をついているようには思えなかった。
何の根拠もないけれど、それだけは確証を持てた。
「柚季」
立ち尽くしていると手をそっと引いて、凪が私を席へと座らせた。
その手は温もりがあり優しく、とても人を心の底から傷つけるような手には思えない。
「……俺が怖いか?」
無表情なのにどこか寂しそうな凪の瞳に、困惑する自分の姿が映っていた。
幼い頃の凪はいつも泣いていた。
私の後ろに付いてきてばかりで、何だか勝手に妹みたいだって思ってた。
それがどうだろう。再会した途端、泣くどころか感情もあまり見せない男になっていたのだから、困惑してもおかしくない。