麗しの彼を押し倒すとき。


だけど。


「怖くないよ」


再開してからも、不思議と彼らを怖いと思ったことはなかった。


凪に掴まれていた手をきゅっと握ると、「そうか」安心したように小さく笑う。



彼らを知りたいと思うのは、ただの私の欲求で。知らないことの方が多い今現在での、不安の現れなのだと思う。

けれど、そんな焦りは必要ないのだと思った。


「まぁ、柚季っちがどう思うかは勝手だけどね」


そうやって私に逃げ道を作ってくれる波留くんや、彼らが優しいということを私は知ってる。それだけでもう十分な気がした。


「何その嬉しそうな顔」


思わず笑みを浮かべると、なっちゃんがウザそうに言った。



「今度ヤンキーとかダサい言葉使ったら、屋上から投げ落とすからね」

「それ死ぬから!」

「柚季なら大丈夫でしょ」


何が大丈夫なのか全く分からない。


結局、彼らがなぜ他校の男と揉めているのかは、闇に埋れたままだった。

一言では語れないような様子に、今は言えない理由があるのかもしれない。


けれど信じると決めたから。



「柚季、明日から昼になったらここに来い」

「……何で?」

「ここならもう寂しくない」


凪ちゃんが柔らかい表情のまま、思いもよらない言葉を口にした。

まるで私の心を読み取ったかのように思えて、びっくりして少し固まる。


別に泣きたいほど辛かったわけじゃない。寂しかったわけでもない。


けれど心の隙間を埋めるように、ぴったりと寄り添ったその言葉は、もしかすると今一番、私が欲してたものなのかもしれないと思った。


「………うん」


私はまだ握られたままだった凪の手を見つめると、小さく返したのだった。


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