麗しの彼を押し倒すとき。


「私、名前だけは結構可愛いと思ってたんだけどなー。ユズの季節で柚季」

「柚子って……おばあちゃんか」

「なっ!違う!」

「しかもユズの “ユ” の字しか入ってねーじゃん」


そう言われて、確かに。と納得してしまった。……だめだ、完敗だ。


どうやら相馬の一族は、口を開けば負け知らずのようだ。今までもそうやって代々数々の人間を論破してきたんだろう。



「ねぇ、ひどいと思わない?」


斜め前に座るこーすけに助けを求めると、彼は柔らかい笑顔を浮かべながら、「まぁ落ち着いて」と私をなだめる。


「俺は柚季可愛いと思うけど」

「……っ!」


そして続けて言ったこーすけに、思わず顔に血液が集まった。


……これだから天然は困る。

この2日で分かったことがある。寺田浩介、彼はどうも私と同じくらいボケているらしい。というか素直すぎる。まるで言葉の駆け引きというものを知らない。

思ったことを整理する前に口にするものだから、こっちは困惑させられることが多い。



「こーすけ、それだと柚季自身が可愛いって意味になるからややこしい。
……で、お前もいくら可愛いって言われ慣れてないからって、こーすけの言葉を鵜呑みにするな」


恋汰が真っ赤になった私に、失礼すぎる言葉を吐く。

わかってる。自分でもコースケは私の名前の事を言ったのだと、そんなのはわかっている。

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