麗しの彼を押し倒すとき。
「俺2つゲットできたから、1つは柚季っちにあげる」
「……ありがと」
おいしいのかはわからないけれど、手に入れるのが大変らしいグラタンパンを私に譲り、波留くんはご機嫌な様子で部屋に置いてある椅子に座った。
まあ、グラタンとパンだから多分相性はいいんだろう。
そう思いながら手に持っていたパンに視線を落としたと同時に、私の足元に影が重なった。
微かな気配に顔を上げると、丁度見上げた位置に綺麗な顔。
波留くんと一緒に食堂に行っていたのか、凪が手に袋をぶら下げて立っていた。
整った顔はパッと見ただけじゃ、人形のようにも見える。凪の場合、無表情なときが多いからかよりそう感じる。
「……凪?」
何も言わず私のデコルテ辺りを見つめたまま動かない凪に、目の前で手を振りながら首を傾げた。しかし考え事でもしているのか、彼は私の行動に一切反応しない。
これはだめだ。
そう思って椅子に座りなおそうとした瞬間、それは起きた。
目の間で振り終わった後、空中で行き場を失っていた私の手を凪が急に掴んだ。
力の差を感じさせるその行動に、少し自由を奪われたような感覚になって、今日も読めない彼の瞳を見つめたまま固まる。
……なんだろう、この感覚。
初日にあの部屋で押し倒してしまった時も思った。凪の瞳をみていると、なぜか少し泣きそうになる。
そわそわして、胸が落ち着かなくなって、居心地が悪い。……けれど、嫌いじゃない。