麗しの彼を押し倒すとき。


昔の記憶が頭をよぎり、嫌な感覚を振り払うようにローファーと貼り付けられた紙を掴むと、近くにあったゴミ箱に靴の中をぶちまけた。

ついでに持っていた紙もくしゃくしゃに丸めると、勢い良く投げ捨てる。


ふと視線を感じて振り返ると、近くにいた男子生徒がギョッとした表情で私を見ていた。

だけどその男子生徒だけじゃない。心なしか、色んな所から見られている気がする。

もうこの際、どう思われようとどーでもいいように感じた。


画鋲が残ってないか確認してからローファーに足を通し、まだまだ明るい太陽の下に出る。

そのまま歩き続け校門を一歩踏み出したところで。


「お嬢さん」

「ひっ!」


肩に手を置かれ、情けない声が出た。

反射的に振り返ると、その手の持ち主は口の端を持ち上げ笑うだけで、私を驚かせたことを少しも悪いと思ってないらしい。



「もう、椿かぁ…。驚かせないでよ」

「悪い悪い」

「全然思ってないでしょ? まだ心臓バクバクしてるのに……」


口をへの字にすると、「本当悪かったよ」と私の頭をポンと撫でる。

その手の感触に昼間の凪を思い出し、思わず顔が赤くなりそうになった。

どうにか抑えようと頬に手をやると、椿のポケットから短く電子音が鳴り、そしてすぐに切れた。

……かと思うと、また短くポキポキ…ポキと、LINE特有のメッセージを知らせる音が連続で鳴り響く。

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