麗しの彼を押し倒すとき。


「鳴ってるよ?」

「あぁ」


ポケットを指差しながら言うと、椿は私の頭から手を離し、鬱陶しそうにスマートフォンの液晶を見つめた。

その間にもポキポキポキと通知を知らせる音が鳴り、比例して椿の眉間のシワが深くなる。



「そう言えば…今日初めて会ったね」

「あぁ」

「お昼ね、旧校舎に行ったんだよ」

「……そうか」


液晶から目を離さず、椿が短く答える。

何でも器用にこなす彼にとっては、二つの事を一度にするのは造作もないらしい。



「今日一日何してたの?」

「まぁ、色々と……」

「まさかずっと保健室で寝てたの?」

「………」


図星だったのか、椿は罰の悪そうな顔をすると珍しく押し黙った。

そんなので卒業できるのか。…と心配になるけれど、椿の場合いくらさぼってもテストでさらりと満点とか取りそうだから何も言えない。


「で、どうしてこんなとこにいるの?」


何と無く話題を変えて聞いてみると、椿が無言でスマートフォンを差し出した。

反射的に受け取り液晶を見ると、なぜか自転車に乗ったおっさんの変なスタンプで埋め尽くされている。

アイコンを見る限り、これを送ったのは波留くんのようだ。


そのまま画面をスクロールさせメッセージを遡ると、『ちゃんと柚季っち連れて来いよー!』とスタンプに埋もれるようにメッセージが送られていた。

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