麗しの彼を押し倒すとき。


「わー!梓、柚季っちが汚れるだろー!」


抱きしめられた肩越しに、波留くんがトングを振り回しているのが見える。

梓くんは私から離れると、「会いたかったよ」まるで遠距離で中々会えなかった恋人に言うような言葉を口にした。


梓くんは椿のお兄ちゃんであり、柚羅の昔からの親友だ。

小さい頃、私もよく遊んでもらった記憶がある。気さくで、優しくて……梓くんは本当によくモテた。


「そういえば……柚季って梓のこと好きだったよな」


ぽつり、隣にいた椿が呟いた。

それを聞きつけたのか、なっちゃんが面白そうにこちらへ来る。


「確かいっつも、ベタベタ梓の後ろ引っ付きまわってたよね」


なっちゃんの意地悪な言葉に、顔が真っ赤に染まるのが自分でもわかった。

けれど事実であるから否定できない。


……小さい頃だけど、私は優しい梓お兄ちゃんが大好きだった。

それこそ会えばベッタリ離れなくて、今考えると梓くんは迷惑だっただろうと思う。


「やめろよお前ら、俺が柚羅に殺されるだろ。 な?」


梓くんは冗談で椿となっちゃんをかわしつつ、笑いながら私の頭を撫でる。



「それに昔も可愛かったけど、もっと可愛くなったから……俺なんかじゃ物足りないよな」


少しさみしそうに言った梓くんの笑顔は、昔とちっとも変わってなかった。

そんなちょっとした仕草で心臓を持って行かれそうになるんだから、今でも彼はモテるんだろうなとぼんやり思う。

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