麗しの彼を押し倒すとき。
「何で梓のことは男ってちゃんと認識してるわけ?」
「はいはい、棗。それ以上柚季をいじめない。ほら火おこすよ」
なおも突っかかってきたなっちゃんの肩を抱きながら、梓くんが作業場へと戻っていく。
その背中を見ながら、兄弟なのに椿とは正反対な性格だなと思った。
どちらかというと椿は必要なこと以外あまり喋らないし、たとえ昔から知ってる女の子が大きくなって現れても、梓くんみたいに『可愛くなった』なんてお世辞、口が裂けても言わないだろう。
「ほら柚季、真っ赤になってないで野菜切るのはお前の仕事な。野郎ばっかなんだから」
「あ、うん」
ぼーっと考えていると、不意にエプロンを手渡された。
「なに?」
「……ううん、何でもない」
反射的に受け取ってしまい、なんとなく断れなくて少し後悔する。
……大丈夫かな。
そんな一抹の不安は、すぐに形となって現れた。
「…………柚季、みじん切りになってる」
「え?ちゃんと輪切りに……」
「それもうみじん切りだから」
原型を失った玉ねぎを見つめていた私に、椿が口元を痙攣させながらいった。
火を起こしている梓くん達とは少し離れたスペースに、簡易的な調理場として長机、そしてまな板と包丁。波留くんたちが買ってきた肉や野菜が広げられている。
エプロンを受け取り仕事をもらった私は、椿と共に早速食材の下準備を始めたのだけど……ほんの1分でクビにされてしまった。