麗しの彼を押し倒すとき。


2人で1つの人参の姿に爆笑しながらも、何だかんだで作業を進めていく。


「椿って本当に器用だよね」


玉ねぎの皮を向きながら、目の前の包丁捌きをみて何となくそう呟いた。

椿は一瞬だけ手を止めると、私の方ちらりと見て、「まあな」と得意げに言う。

冗談で返したつもりなんだろうけれど、本当に器用だから得意げなその言葉も全く冗談になってない。


彼は本当に昔からなんでもできた。

欠点は強いて言うなら、クールに見えて照れ屋なところくらいだろうか。

だけどそれすら周りからすると、可愛いギャップと言われるんだと思う。

ちょっとくらい隙がある方が、完璧よりも身近に感じる。そんな世間のニーズに答えて生まれてきたような人間とも思える。


「椿が羨ましいよ」


私がぽつりとこぼすと、野菜を切り分けていた包丁のリズミカルな音が再び止まった。



「俺は柚季が羨ましい」

「へ?……私が?」

「あぁ」


真っ直ぐ伝えられて、少し困惑してしまった。



「それは……私が女だから?」

「違う」


即答された挙句、「なんでそうなるんだよ」と呆れられる。

ないと分かっていても、まさか椿が女の子として生まれて来たかった、とか言い出すんじゃないかと、確率の低すぎる質問をしてしまった。

私のぶっ飛んだ思考回路に振り回されるのも、どうやらいい加減慣れてきたようで、椿は冷静に野菜の下準備を再開する。

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