麗しの彼を押し倒すとき。
「……まぁ強いて言うなら柚季の場合、こんな感じで失敗しても、私ボケてるんです。で、どーにかなりそうな所かな」
「ちょ、ひどい!」
私を羨ましいと言った理由があまりにも気の抜ける理由で、剥いていた玉ねぎの皮を投げつけるフリをした。
だけど、なぜか椿がふざけて言ったようには見えなくて。
「嘘だよ」
そう、少し悲しそうな顔で笑うから、私を羨ましいと言った彼の言葉は、とても嘘に思えなかった。
「はい、それ貸して」
ぼんやりしていた私の手から剥き終わった玉ねぎを奪うと、それを器用に輪切りにしていく。
「っ……」
しかし最後のほうになって玉ねぎが滑り、椿が顔をしかめた。
ぽたりと白いまな板の上に落ちた赤が、激しい色のコントラストを作る。
「大丈夫!?」
私はすぐに身を乗り出すと、血の流れる指を掴んだ。
幸い深く切ってはないものの、傷口からは痛々しく血が流れ出ていてすぐに止まりそうにない。
そのまま指を伝い垂れてしまいそうな血液に、気がつくと椿の指を咥えていた。
口の中に軽い苦味と、微かな鉄の味が広がる。
この状況に “痛い” とすら言わない彼の様子を上目遣いで見ると、椿の顔は真っ赤に染まっていた。