麗しの彼を押し倒すとき。


「……大丈夫?」

「え、あ……あぁ」


何も言わない椿が心配になって声を掛けると、意識を取り戻したように手を引っ込める。

やけに動揺した様子に、椿らしくないと感じた。



「もしかして、血ダメなの?」

「いや…別に、それは大丈夫」

「……それは?」


追求するように聞くと、真っ赤な顔を隠すように拳を口元にやり一歩後ずさった。

どうやら完璧な彼は、私に弱味を見せるのが嫌らしい。

その動揺の原因が自分の行動にあるとは知らず、私は素直じゃない椿に頬を膨らませた。



「何で舐めたりしたんだよ」

「え?」

「……指」

「あぁ、だって舐めときゃ治るって言うじゃん」


何故か理由を知りたがる椿に、きっと誰もが一度は聞いた事あるだろう民間療法を伝えると、「やっぱバカだ」呆れたように頭を押さえる。

何がバカなのか分からない。私は良いと思ったことをしただけなのに、そんな人間にバカとは酷すぎる。



「そんな根拠もないことを……」

「だって、小さい頃おばあちゃんが…」

「いいか、人間の唾液にはな、細菌がめちゃくちゃいるんだよ」

「え!そうなの?」


知らなかったとはいえ、椿の指にたくさんの雑菌や細菌を付けてしまったのかと思うと、今更ながらゾッとする。

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