麗しの彼を押し倒すとき。


「そんなこと言うけどさ、梓もあのクッキー食べたでしょ?」

「ああ」

「そのクッキーより、今回の野菜炭事件のほうがやばいよ?」


なっちゃんが網の上で真っ黒になった野菜たちを指差して、火曜サスペンスのサブタイトルように言った。

本当、今すぐあいつの口をガムテープでぐるぐるに封じてやりたい。


そんなことを考えていると、何を思ったのか梓くんが網の上で死んでいたピーマンを、持っていたトングでつまんだ。

その表情はどこか決意さえ感じられる。


何してんの!

瞬間、この場にいた全員が同じ思考になったに違いない。


「バカ、やめとけ!」


波留くんが叫んだのとほぼ同時、つまんでいた真っ黒のピーマンを梓くんが口の中に放り込んだ。


全員が固唾を飲んで見守る中、最低限に咀嚼して飲みこむ。

そして私に笑顔を作ると、「お…美味しいよ」いくらなんでも無理がありすぎる嘘を口にした。


「ばか!水飲め!」

「お前死ぬ気か!それは食いもんじゃない、炭だ!」


なっちゃんと波留くんが慌てて水を用意して、それを受け取った梓くんの手が震えているのがわかる。

直訳すると “マズイ” のサイン。


いくらなんでもやりすぎだ。そうまでして私を救おうとしなくてもいいのに。

彼のその優しさが、実は一番胸に刺さったりする。

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