麗しの彼を押し倒すとき。


「凪って昔から人参嫌いだったよね」

「……」

「その理由が “野菜のくせに甘いからイヤ” って。聞いたとき笑いとまんなかったよ」


からかうように顔を覗き込むと、いつもよりその頬が赤いことに気がつく。

それが私の言葉で起こった変化なのだと思うと嬉しくて、余計からかいたくなってしまう。



「ねぇ凪、給食でのこと覚えてる?」

「……」

「肉じゃがの人参がどうしても食べられなくて、泣きそうになりながら私に代わりに食べてって……んぐっ」


突然口に物を押し込まれて、息が止まるかと思った。


「うるさい」


少しからかいすぎたのだろうか。目を丸くして見つめた先には、少し不機嫌そうな凪がいる。


「それ以上喋ると次はこっちで塞ぐよ」


人差し指で自分の唇に軽く触れる。その姿が色っぽすぎて、意識が遠くに飛んでしまいそうだった。


口の中に押し込まれた物を噛み砕くと、ふわりと微かな甘みが広がる。

それは彼の嫌いな人参独特の甘み。


……やられた。

私を恥ずかしがらせた上、ちゃっかり嫌いな物を押し付けた凪に、からかわれてたのはこっちだと気がついた。


人参を処理できたことで私はもう用済みになったのか、凪は席を立つと紙皿を持って梓くんのもとへ歩いて行く。



「柚季っちってそういうとこあるよね」

「へ!?」


声がした方に振り向くと、凪と入れ替わるように波留くんが意味深な表情で私を見つめていた。

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