麗しの彼を押し倒すとき。


波留くんは歩いてこっちに来ると、さっきまで凪が座っていた席に腰掛ける。

その手には焼き鳥だろうか。串状の物が握られていて、一口食べたのか先の方が無くなっていた。


「それって焼き鳥?」


さっき意味深に言われた言葉の続きを聞くのも忘れ、私の頭の中はおいしそうな焼き鳥でいっぱいになる。



「うん、今さっき丁度焼けたとこ」

「そっか」

「まだあるから取っておいでよ」


波留くんの手元にある焼き鳥を見ると、意外と量がありそうで、既に腹九分目くらいだったのもあり丸一本食べきる自信がない。

けれど焼きたての香ばしい匂いが鼻をくすぐって、どうしても味見してみたくなる。



「ねぇ波留くん」

「ん?」

「一口ちょうだい?」

「え!?」


おどけたように言ってあーんと口を開くと、やけに焦った波留くんの声が聞こえた。

早く食べたくて口をパクパクさせると、「ヒナみてぇ」少し困ったように笑う。


「お母さんお腹すいたよぉ」


悪乗りしてそう続けると、私の口元に串の先が差しだされた。



「しょうがないなー」

「やった!ありがと」


パクっとかじりつくと、視界の端で波留くんの顔が微かに赤くなった。

串から焼き鳥を一口分だけ抜き取って、予想通りのおいしさに思わず顔がほころぶ。

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